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<概要>

Fair Finance Guide Japanではこれまでに2023年に発行した「脱炭素社会への移行の陰で起きている環境破壊と人権侵害」、2024年に発行した「『グリーンローン』の裏で―インドネシア、ソロワコ・ニッケル鉱山開発・製錬事業タナマリア鉱区探査・採掘拡張計画に係る人権問題」と2025年に発行した「不満・不信感を助長する補償交渉~インドネシア:バホドピ鉱山及び製錬所計画を巡る実態」の3つのケース調査にて日本からの投資やサプライチェーン上の関係の深いインドネシアのPTVI社がかかわるニッケル鉱山における人権侵害等の問題点が複数年時にわたって継続されている問題であることを指摘してきた。

 

しかしながら、フォローアップ調査によって、PTVI社がかかわるソロワコ・ニッケル鉱山においてなお引き続き人権侵害が起きている状況が確認された。特にこれまでに報告してきたソロワコ鉱山タナマリア鉱区ロエハ・ラヤ地域の胡椒農家と女性らは建設的な対話を行うための条件を示した書簡を送付するなど、対話に向けた意思を示してきたにも関わらず、住民らの望む形での対話が行われないどころか、インドネシア国軍の大隊本部候補地として胡椒畑の中に看板が立てられたりするなどの威嚇行為が行われてきた。

 

このような威嚇行為は世界銀行グループ国際金融公社(IFC)の定める「環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準(通称:IFC PS)」の複数の規定にまたがった違反行為である。「基準1環境社会リスク影響の評価と管理」に関しては「ステークホルダーエンゲージメント」、「情報公開」、「協議」、「情報を提供した上での協議及び参加」の各項目に対して違反しており、「基準5用地取得及び非自発的住民移転」にも違反していると考えられる行為である。このようなパフォーマンス基準はIFCによるファイナンスが検討される際に用いられるものであるが、一方で国際的に認められた金融としての倫理基準の一つである。環境・社会への配慮とSDGsの実現を謳う金融各社には最低限準拠することが求められて当然なものだと言える。

 

加えて、2025年8月23日にはPTVI社が所有する重油パイプラインの破損による広域な汚染が生じており、6村にわたって被害が報告されている。PTVI社はこれまでに4回油流出事故を起こしており管理・インフラ整備体制には大きな問題がある。汚染された河川で獲れた魚を食した住民が中毒症状を起こしたケースや汚染された水を飲んだ牛などの家畜が死亡するケースのほか、河川岸や水田の汚染は事故から5ヶ月半が経過した2026年2月にも影響が残っており、耕作できない住民も少なくない。その補償も速やかに行われていないとのことである。

 

さらに、採掘・精錬のために使用される水力発電所が引き起こしている周辺湖の水位変動による被害や、採掘現場を流れる河川の重金属汚染はこれまでに報告されている問題が引き続き改善することなく生じていることも確認されている。

 

これらの点からPTVI社にはサステナビリティにかかわる課題解決力が著しく欠如していると考えられる。そのPTVI社の株式を保有し、ソロワコ・ニッケル鉱山からニッケルマット原料を購入している住友金属鉱山株式会社はPTVI社の問題行為を黙認している「イネイブラー」として責任が追及されるべきである。

 

さらに、PTVI社の親会社にあたるブラジルのVale社最大の海外資本による単独株式保有者は三井物産株式会社である。三井物産はその投資家としての立場から問題解決のために圧力をかけられる立場でありながら、十分にその役割を果たさず、人権侵害・環境破壊を継続させている。特に三井物産によるVale社の株式保有は鉱物の取引継続を狙った政策保有ではなく、純投資目的と定められている。地政学的にサプライチェーンの不安定化が問題視されている中、事業継続のために取引関係が容易に解消できないといった事情はここには存在しない。

 

これら2社には三大メガバンクは全て投融資していることが確認できている。しかし、中でも最も大きな投融資をしているのは三井住友FGである。民間銀行で最大の単独融資を住友金属鉱山に対して実行している上にシンジケートローンの幹事社として合計1120億円の資金提供を手配している。農林中金は融資金額では及ばないもの、先のFFGJによるレポートを発行した後で住友金属鉱山に対する融資を増額している点はデューディリジェンスが不十分だと言わざるを得ない。

 

投融資にかかわっている金融機関各社は住友金属鉱山に対して、現在起きている問題の早期解決に向けた具体的行動を要求するとともに、開発が検討されている地域における住民の「拒否する権利」を尊重し、サプライチェーンの多様化を促すエンゲージメントを実施するべきである。また、三井物産へはVale社からのダイベストメントを求めるとともに各社競ってサステナビリティ基準に適合した投資先を提案するべきである。とくに後者はビジネスとして当然の営業行為のはずであり、それを実現できていないのはもはや金融機関の本懐を見失っていると批判されても仕方ないだろう。

 

(写真提供:WALHI南スラウェシ)